強靭防護網

強靭防護網が生み出された背景

求められる性能

道路土工構造物の安全性については、つい最近まで国として明確な技術基準が定められていませんでした。
この様な状況を鑑み、平成27年3月、道路土工構造物の新築又は改築に関する一般技術基準として
「道路土工構造物技術基準」(以下、同基準)が道路法に基づいて制定されました。

また、高エネルギー吸収型落石防護工(同基準では斜面安定施設に該当)についても、採用実績が増え続けていますが、これらに対する統一的な性能評価指標も無く、要求性能を満たす性能照査方法も無い為、同基準に適応する必然性は高まっていました。

平成29年12月、改定版の落石対策便覧(以下、落石対策便覧)が発行され、ポケット式落石防護網について以下の3つに分類しています。(P154)

1.従来型ポケット式落石防護網
2.高エネルギー吸収型ポケット式落石防護網
3.その他(1.とは使用材料や構造等の一部が異なるもの)

この内、[2.][3.]の性能設計に係る項目には、作用荷重や性能限界の設定(P157-159)が必要となり、実験による性能検証(P159-161)が明示されています。

落石防護工の性能水準と損傷イメージ (道路土工構造物技術基準・同解説を基に作成)

斜面安定施設
防護施設が崩落土砂を補足道路の通行機能に支障なし
片側交互規制は行うが、道路の通行機能は確保簡易な復旧により通行機能を回復
全面通行止めは行うが、復旧工事により通行機能が回復

実験による性能検証

落石対策便覧に明示されている実験方法(P159-160)は、以下の参考文献を基準として定められています。

整理番号第491号 【高エネルギー吸収型落石防護工等の性能照査手法に関する研究】共同研究報告書 平成29年3月 国立研究開発法人土木研究所

「実験による性能照査手法編」(P152-162)

〈共同研究報告書とは?〉
◆ 落石防護工に求められる機能と性能を明らかにし、性能照査手法を確立・まとめる事を目的として作成された文献です。
◆ 本書作成に参加されたメンバーは、国立開発法人土木研究所、国立大学法人室蘭大学および落石防護製品(高エネルギー吸収型含む)開発会社などで構成されています。
◆ 国立研究開発法人土木研究所より参加された有識者は、落石対策便覧の執筆についても兼任されております。

共同研究報告書P153では、落石防護網(柵)として求められる性能として、3つを挙げています。
1.「捕捉性能」 想定される落石を確実に捕捉できる事
2.「維持管理性能」 落石や土砂が堆積したときの撤去、破損した時の部材の取り換え、補修が容易な事
3.「耐久性能」 耐久性に優れる事

この内、実験による性能検証は「捕捉性能」となります。

高エネルギー吸収型ポケット式落石防護網の標準的な実験方法について、落石対策便覧と共同研究報告書のそれぞれに記述されている項目を、以下の表に整理しました。

  項 目 落石対策便覧
P159-161
共同研究報告書
P155-158
1 供試体 実物大 左と同義
支柱本数 任意 任意
支柱間隔 現地適用の最低構成
阻止面高さ 構造体の仕様毎
個数 1体以上 *
2 重錘衝突方法 任意 左と同義
3 重錘形状 多面体 左と同義
コンクリート製 左と同義
密度2,300~3,000kg/m3 左と同義
4 衝突速度 25m/sec以上を標準 左と同義
(90km/h以上) 高速度カメラ等から算出
5 入射角度 阻止面に対し垂直 左と同義
斜めの場合は垂直成分に補正
6 重錘衝突位置  
水平方向 スパン中央 左と同義
鉛直方向 設計上の衝突位置 中央から上
7 重錘回転の影響 P157設計に用いる
落石エネルギーでは考慮しない
考慮しない
8 計測項目・方法  
衝突前データ 重錘重量 左と同義
阻止面高さ 左と同義
形状寸法 左と同義
使用材料ミルシート等 左と同義
衝突時データ 衝突直前の重錘速度 左と同義
阻止面への重錘入射角度 左と同義
阻止面の最大変形量 左と同義
その他各ロープ張力等 左と同義
設計に必要な項目 画像データ
衝突後データ 阻止面高さ 左と同義
損傷状況(補修量の目安) 左と同義
緩衝装置類の動作状況等 左と同義

実験結果は、総括表(評価シート)に整理するとともに、構成部材の限界状態に照らして、構造体として各要求性能を満たす落石エネルギーを明示し、詳細は実験報告書としてとりまとめます。

現場適用にあたっての留意事項

(1)実験時の供試体寸法を下回る大きさでの適用は出来ません。
(2)実験時の衝突速度が25m/sec未満である場合、その速度が適用限界となり、現場適用条件によっては落石の落下高さに上限が設けられる事があります。
(3)実験時を上回る入力エネルギー・衝突速度に、数値解析は適用出来ません。

実規模実験結果(事例)の紹介

強靭防護網の実規模実験は、前述の実験条件に基いて行っています。
約2年前の実験開始より、40回/年を超える実験を実施し、今現在も継続的に稼働しています。以下、実験結果の事例を2件紹介します。

強靭防護網 ロープタイプ (実施日 2017年3月16日)

供試体 延長:10m 高さ:15m 支柱本数:2本 緩衝装置:62箇所
重 錘 形状:多面体 質量(W):8,350kg 密度:2,696kg/m³
実験結果 重錘衝突速度(V) 26.15m/sec
阻止面への重錘入射角度(θ) 81°
衝突時エネルギー(E) 2,800kJ(1/2WV²×cos(90°−81°))
阻止面の最大張出し量 6.1m
高さの変化 1.00m
緩衝装置の作動状況 良好
重錘衝突位置 阻止面天端から6.7m下り
損傷状況 阻止面に破断及び摩耗、ワイヤロープの一部に破断及び摩耗が確認された
支柱・アンカー・緩衝装置に損傷なし

強靭防護網 ネットタイプ (実施日 2017年8月9日)

供試体 延長:10m 高さ:15m 支柱本数:2本 緩衝装置:42箇所
重 錘 形状:多面体 質量(W):3,690㎏ 密度:2,684㎏/m³
実験結果 重錘衝突速度(V) 25.96m/sec
阻止面への重錘入射角度(θ) 82°
衝突時エネルギー(E) 1,200kJ(1/2WV²×cos(90°−82°))
阻止面の最大張出し量 5.85m
高さの変化 2.33m
緩衝装置の作動状況 良好
重錘衝突位置 阻止面天端から4.3m下り
損傷状況 阻止面に破断及び摩耗、ワイヤロープの一部に破断及び摩耗が確認された
支柱・アンカー・緩衝装置に損傷なし
  • 重錘 重さ=8,350kg
    ロープタイプ(2,800kJ)実験時に使用

  • 重錘 重さ=3,690kg
    ネットタイプ(1,200kJ)実験時に使用

高速度カメラによる重錘の阻止面衝突直前の速度解析

  • 高速度カメラ

  • レーザー式計測器

性能水準

ロープタイプ・ネットタイプ共に、各3回の実験を行い、性能検証結果より重錘の捕捉・誘導が確実に行われており、安全性能が満たされていると判断できました。 両タイプとも、1度載荷した供試体を部分修復して再載荷を実施し、変わりなく捕捉・誘導がなされていることから、修復性能も満たされていると判断しました。
以上の結果より、強靭防護網(ロープタイプ・ネットタイプ)の性能水準は【性能2】と評価しています。

安全性 使用性(供用性) 修復性
性能1
性能2 △(修復により○)
性能3 × ×

性能レベルの判断基準を簡単にまとめると
性能1 → 構成部材の交換は必要無い。(継続使用可)
性能2 → 構成部材の一部を交換(容易に行える範囲)する事で機能(性能)が回復出来る。
性能3 → 構成部材の更新が必要。

強靭防護網の性能と特徴、構造とは?

ロープタイプ

極めて高い性能を追求した構造/対応可能エネルギー ~2, 800kJ
強靭防護網ロープタイプは、極めて大きな落石エネルギーに対応した構造です。
高強度ロープを縦・横の格子状に配置し、ロックアンカーと端末緩衝金具を多く設置するタイプです。

ロープタイプ構造
  • ①ロックアンカー+端末緩衝金具

    ロックアンカー+端末緩衝金具

    端末緩衝金具によってスリップロープに加わる張力を制限する為、高強度ロープへの損傷を抑え、ロックアンカーの引抜け等を防止します。

  • ②ひし形金網(φ5.0mm)高強度ロープ(φ18mm)+結合コイル

    ひし形金網(φ5.0㎜)<br>高強度ロープ(φ18㎜)+結合コイル

    高強度ロープは縦40cm×2本横50cm×1本間隔で配置します

  • 展開イメージ図

    展開イメージ図
  • 横断イメージ図

    横断イメージ図

ネットタイプ

コスト・施工性のバランスが取れた構造/対応可能エネルギー ~500kJ・1,200kJ
高強度金網を使用し、高強度ロープと緩衝装置の配置が少ない形状です。

ネットタイプ構造
  • ①ロックアンカー+緩衝装置

    ロックアンカー+緩衝装置

    緩衝装置の設置数によって高強度ロープに加わる張力を調整し、高強度金網・硬厚金網への損傷を抑え、ロックアンカーの引抜け等を防止します。

  • ②高強度金網 +高強度ロープ +ストップフック

    高強度金網+専用ワイヤロープ+結合コイル

    高強度金網に対して、高強度ロープを横方向のみに2. 5m間隔(例)で配置していき、ストップフックで接続します。

  • 展開イメージ図

    展開イメージ図
  • 横断イメージ図

    横断イメージ図

細部の構造は変更となる場合があります。

強靭防護網が採用される顕著な事例

比較される対策工の概要と課題(落石防護工を主体とした場合)

対策工 ①落石予防工+
落石防護網(柵)工(従来型)
②高エネルギー吸収型
落石防護網工
③高エネルギー吸収型
落石防護柵工
(ネット強化型)
概要 落石発生源で個別に予防工を行い、道路脇にて落石防護網(柵)を併用する方法。 落石発生源で個別に予防工を行い、道路脇にて落石防護網(柵)を併用する方法。 斜面中に支柱を設置し、上方からの落石を、ネットの大変形と緩衝装置の相互作用により作用エネルギー吸収し捕捉する工法。 斜面中に支柱を設置し、上方からの落石を、ネットの大変形と緩衝装置の相互作用により作用エネルギー吸収し捕捉する工法。 斜面中に支柱を設置し、上方からの落石を、ネットの大変形と緩衝装置の相互作用によりエネルギー吸収し捕捉する工法。 斜面中に支柱を設置し、上方からの落石を、ネットの大変形と緩衝装置の相互作用によりエネルギー吸収し捕捉する工法。

対策工① 課題

対策工① 課題

従来型落石防護網(柵)は小規模落石を対象としている。大きな落石は別途予防工で対策が必要となるが、広範囲に及ぶ場合仮設費・施工日数や用地取得の時間を要する場合がある。

解決策

解決策

強靭防護網は大きな落石エネルギーに対応。別途、予防工の必要な範囲が大幅に減少または不要となる。
その為、施工日数や仮設費の減少に繋がる。

対策工② 課題

対策工② 課題

道路からの目視点検時、植生が繁茂んし視認が困難である。ネット内に推積した落石の撤去など維持管理に課題がある。

解決策

解決策

道路からの目視点検時、植生が繁茂しても斜面下端防護柵背面まで落石が誘導される為、視認が可能である。ネット内に推積した落石の撤去は容易である。

強靭防護網の耐久性

部材規格と耐用年数

  • 使用される部材の防蝕仕様は溶融亜鉛めっきを標準としています。
  • 耐用年数の判定は素線径の細い金網を基準に判定しており、郊外地区(田園地帯)において約50年程度となります。

計算式:耐用年数=亜鉛付着量(g/m2)÷腐食速度(g/m2/年)×0.9

  • 海岸地帯等の腐食速度の大きい地域においてはアルミ亜鉛合金めっきを選択することで、上記と同程度の耐用年数を確保することが可能です。
  • 景観保全を考慮しなければならない箇所において着色仕様を選択することも可能です。

溶融亜鉛めっき使用環境別耐用年数

溶融亜鉛めっき使用環境別耐用年数

亜鉛アルミニウム合金めっきの耐食性

亜鉛アルミニウム合金めっきの耐食性や協会規格については 以下を参照してください。

強靭防護網 施工手順

主な仮設備

現場内運搬にはトラッククレーンや簡易ケーブルクレーン等が主体となります。現場条件によっては、モノレールによる運搬方法も検討します。

標準的な施工手順フローチャート

施工性および維持管理性

・施工に必要な仮設備は一般的な落石防護網工と同程度であり、トラックレーン簡易ケーブルクレーンまたはモノレールによる資材運搬と、ロープ足場による人力作業が主たる施工手段となり、ネットタイプは同等性能をもつ他の落石防護工に比べて大幅な施工日数および経費の削減を実現しています。

・使用されるロックアンカー、高強度ロープは端末緩衝金具・緩衝装置によって部材に掛かる張力が制限(又は調整)されるため、破損が極めて起こりにくくなっています。また、落石は道路下端へ誘導されるため、日常の施設パトロールで点検が可能です。